2024年度 食創会 「第29回 安藤百福賞」大阪大学 産業科学研究所・教授 関谷 毅氏が大賞を受賞

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「食創会 ~新しい食品の創造・開発を奨める会~」(会長:小泉 純一郎、元内閣総理大臣) は、「第29回 安藤百福賞」の受賞者6名を選定しました。表彰式は、2025年3月11日(火)にホテルニューオータニ (東京都千代田区) で開催します。
公益財団法人 安藤スポーツ・食文化振興財団 (理事長:安藤 宏基) が主宰する「食創会」は、食科学の振興ならびに新しい食品の創造・開発に貢献する独創的な研究者、開発者およびベンチャー起業家を表彰する「安藤百福賞」表彰事業 (後援:文部科学省、農林水産省) を1996年から実施しています。

今年度の「大賞」は、大阪大学 産業科学研究所の関谷 毅教授が受賞しました。関谷氏は、有機材料の柔らかさを活かしたフレキシブル・ストレッチャブルエレクトロニクスの作製プロセスを開発し、シート型ワイヤレス脳波センサを具現化しました。この技術により、小型で軽量・薄型、ワイヤレス、かつ低コストな計測装置が実現され、自然な状態で脳活動などの生体情報を高精度に測定できるようになりました。また、この技術を食科学に応用することで、味覚やおいしさの研究、さらには心身の健康を支える食品の研究に新たな可能性をもたらすと期待されています。関谷氏には、副賞として賞金1000万円を贈呈します。

「優秀賞」は、世界最大規模の腸内細菌叢統合データベースを構築し、精密栄養学の基盤研究を推進する國澤 純氏 (医薬基盤・健康・栄養研究所) と、食品の安全性ならびに貯蔵性を確保し、食品産業発展に寄与する研究で実績をあげた宮本 敬久氏 (九州大学) に決定しました。両名には、副賞として賞金200万円を贈呈します。

「発明発見奨励賞」は、生物学的実験が主流の健康機能評価にメタボローム解析を融合し、肥満予防に寄与する成分を多数同定した高橋 春弥氏 (京都大学)、世界で初めてレモンスライス入りチューハイの量産販売を行った豊嶋 麻里氏 (アサヒビール株式会社)、腸内細菌による食物繊維の代謝産物である「酪酸」が、腸炎の発症を予防していることを発見し、関与する食物繊維種を同定ならびに分類した古澤 之裕氏 (富山県立大学) に決定しました。3名には、副賞として賞金100万円を贈呈します。

受賞者と受賞内容の紹介

1.安藤百福賞 大賞 (賞金1000万円)

関谷 毅 (セキタニ ツヨシ) 47歳 大阪大学 産業科学研究所・教授
受賞テーマ:フレキシブルデバイスを用いた生体計測センサの開発 ~食品と生体計測の融合で実現するウェルネス~
受賞内容:有機材料の柔らかさを活かしたフレキシブル・ストレッチャブルエレクトロニクスの作製プロセスを確立し、その成果としてシート型センサシステムを実用化している。この技術は、電気電子工学、材料工学、高速通信、情報処理技術を統合することで実現され、脳活動計測システム「パッチ脳波計 (ワイヤレス脳波センサ)」の開発をはじめ、多くの分野で活用されている。特に、小型で軽量・薄型、ワイヤレス、かつ低コストな計測装置により、自然な状態での脳活動測定が可能になった。この技術は食科学にも応用されており、味覚やおいしさの研究、さらには心身の健康を支える食品の研究に新たな可能性をもたらすと期待されている。脳活動を含む多様な生体計測技術を基盤に、食の力を引き出し、Well-being社会の実現を目指すこの研究は極めて高く評価できる。

2.安藤百福賞 優秀賞 (賞金各200万円)

國澤 純 (クニサワ ジュン) 50歳 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 医薬基盤研究所 副所長、ヘルス・メディカル微生物研究センター センター長
受賞テーマ:腸内細菌叢統合データベースの構築と精密栄養学の基盤研究
受賞内容:世界最大規模の腸内細菌叢統合データベース「NIBIOHN JMD (Japan Microbiome Database)」を構築した。NIBIOHN JMDには、腸内細菌叢データと共に、食事、摂取栄養素、身体活動などの生活習慣データなどさまざまなデータが掲載され、その一部データは公開されている。自身も本データベースを活用して数多くの腸内細菌に関する研究業績を残している。また、腸内細菌や生活習慣などの外的因子と遺伝的因子などの内的因子の影響も考慮に入れ、健康を維持するために必要な栄養学的情報を各個人の体質や生活スタイル、ライフステージなどに応じて提供する精密栄養学の基盤研究を推し進めるその業績は高く評価できる。

宮本 敬久 (ミヤモト タカヒサ) 65歳 九州大学大学院農学研究院・特任教授
受賞テーマ:食品の腐敗防止および安全性の確保に関する研究
受賞内容:各種食中毒細菌および細菌毒素の簡易迅速検出同定法を開発し、土壌から収穫に至る農産物生産過程全般での衛生管理を科学的に検証した。農作物表面の汚染バイオフィルムに対する効果的な除菌殺菌法を開発し、食品添加物や緑茶ポリフェノールなどの食品成分について、食中毒細菌に対する抗菌作用を確かめ、その作用機構の解明を行うなど、長年一貫して食品の安全性ならびに貯蔵性向上に寄与する研究に従事した。また、2024年には一般社団法人微生物制御技術機構を立ち上げ、食品の危害微生物制御技術や知識の普及、新技術開発、人材育成に貢献する活動を開始した。日本の食品科学工学や食品微生物学の進歩や食品産業界の発展に寄与するその業績は高く評価できる。

3.安藤百福賞 発明発見奨励賞 (賞金各100万円)

高橋 春弥 (タカハシ ハルヤ) 37歳 京都大学大学院農学研究科・助教
受賞テーマ:質量分析データを応用した肥満予防に寄与する生体内因子及び食品成分の同定
受賞内容:生物学的実験による健康機能情報とメタボローム解析を主とした質量分析データ(成分情報) を活用する包括的健康機能評価方法を確立した。この手法を用いて、肥満を起因とする代謝異常の改善に寄与する生体内成分を特定するとともに、食品分野においては、脂質代謝促進作用を有する麹由来成分の特定、トマト由来カロテノイドの新たな健康機能作用機序などを見出した。今後は、確立した包括的健康機能評価方法を広く活用することにより、従来法では見いだせなかった生活習慣病予防に資する新たな食品素材が発見されることが期待される。

豊嶋 麻里 (トシマ マリ) 36歳 アサヒビール株式会社 マーケティング本部 開発プロジェクト部 担当課長
受賞テーマ:世界初・本物レモンスライス入りチューハイ量産販売への挑戦
受賞内容:お客さまへワクワクを届ける独自価値を持った商品開発を目指し、開缶時に本物のレモンスライスが缶底から浮き上がるレモンスライス入り缶チューハイの製造販売に挑戦した。商品特性を満たすレモンスライスの開発・量産化、高速搬送に順応したレモンスライス装入設備の開発などの大きな課題に対し、プロジェクトチーム一丸となって果敢に挑戦。構想から3年半後にエリア限定販売を実現した。一つのアイデアを具現化する上で挑戦する姿勢が最も重要であり、今後も酒類業界の発展に寄与する革新的な商品が開発されることが期待される。

古澤 之裕 (フルサワ ユキヒロ) 42歳 富山県立大学・准教授
受賞テーマ:食物繊維による免疫調節の研究
受賞内容:腸内細菌による食物繊維の発酵代謝産物である「酪酸」が、腸管の免疫寛容を担う制御性T細胞 (Treg) を誘導し、腸炎の発症を予防していることを発見した。食物繊維は難消化性多糖の総称であり、構造や物性の異なるものが数多く存在するため、種々の食物繊維の研究を進め、腸炎の発症を抑制する食物繊維種を同定し、免疫調節機能をもとにした食物繊維の新分類を提唱した。炎症性疾患やアレルギーなどの免疫系疾患は、労働力を担う年齢層に好発する社会的損失の大きい疾患であり、その予防に関する研究は、QOL (Quality of life) 改善や経済効果につながることが期待される。